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ひとりごと
熊の巣穴

                熊 現れる

川の音だけが聞こえていた。
裸電球が、たよりなく小屋の辺りを照らしていた。

突然、視界の片隅に黒い物が入ってきた。
熊だ。ツキノワグマだ。
熊は音もなく、私達の目の前に現れた。
心臓の鼓動が熊に聞こえるのではないかと思った。
熊は小屋の横のゴミ穴で、死んだマスや魚の内臓などを当然のように食べ
始めた。

中学生の頃見た、熊に襲われる怖い夢の記憶が突然よみがえった。
熊を怖いと思っていた自分が、いつの間にか熊に会いにきてる。
そして今、目の前7〜8メ−トル先に野生のツキノワグマがいる。
熊は食べながら、時々頭上げ、私達が潜んでいる小屋の方を見る。
人間がそばにいるのを知っているようだ。
丸々太ったその体。黒光りした毛並み。
だんだんと、私の気持ちが落ち着き、冷静に熊を観察出来るようになって
きた。 隣の妻の緊張感が伝わってくる。

結婚前から、私は妻をいろいろなフィ−ルドに引っぱり出した。
この数ヶ月間で、タヌキ、サル、ムササビ、ハクビシン、ニホンジカ、エゾ
シカ、キタキツネといったケモノや、いろいろな小鳥、フクロウの雛、鷹や
鷲の猛禽類にまで出会うことが出来た。
ヒグマが出るという山の中では、歩いているそばのブッシュから突然大きな
エゾシカが現れ、一瞬、ヒグマかと肝を冷やしたこともあった。

そして今、私達は、丹沢では30頭前後しか生息していないと言われるツキノ
ワグマと向き合っている。

熊はしばらくして、お腹がいっぱいになったのか、食べるものがなくなった
のか、動き出した。
まずい。こちらの方に歩いてくる。 扉は壊れそうだし、窓は大きく開いて
いる。小屋に体当たりでもされたらどうしよう・・・・。そばの池に飛び込
むしかないか。
問題はすぐ解決した。 熊はUタ−ンして、池の小屋の壊れている板壁から
中に入った。 助かった。 熊がまたこちらに戻って来ない事を確認して、
物音をたてぬ様、急いで撤退した。
丹沢ホ−ムまでの帰り道、林道で熊に出会わない事を願い急いだ。
しばらく歩いて丹沢ホ−ムの灯りが見えた時、ようやくほっとした。

その後、丹沢ホ−ムの中村さんは、熊と人との接触をなくす為、壊れた小屋
の板壁を直し、魚油も熊の手の届かないところに保管した。熊は何回か養鱒
場の周りに現れたが、食べ物が手に入らないとわかったらしく、そのうち養
鱒場には来なくなったとのことである。